「わるい、揉めてるんだよな」
運行管理を任されてすぐの頃。
創業時からいるベテランドライバーからの一報。
なんかあった?って聞いたら、
「追いかけてるから、苦情きたらよろしくな!」
いやいや、お願いだからやめて。
でも、
「東京から福岡まで13時間で走り抜ける」
猛者たちの集う職場だったんです。
道路上での揉め事なんて日常茶飯事。
割り込み、譲らない、煽られた…誇りとプライドが交錯する世界。
居眠りよりマシ、って考えもあった時代。
案の定、会社に苦情の電話が来た。
「迷惑かけて申し訳ありません、こちらでも確認します」
相手なのか目撃者なのかすら分からず、折り返しも不要とのこと。
数時間後、本人から再度連絡。
「やったぜ!捕まえてとっちめてやった!」
いやいやあんた、
警察じゃないのよ。
そして始まる武勇伝。
「名古屋から5時間かかってやっと止めた!……あ、ごめん今四国」
……え?
福岡向かってたはずじゃ??
さらに追い討ち。
「無線で同僚呼んで、2台で挟んでやったぜ」
いやもう、
パトカーじゃなくてウチの車やん。
笑うしかなかった。
でもそんな人たちが、
それでも時間通りに福岡に着いちゃうのが一番怖い。
今なら間違いなく動画付きで大拡散されてる。
でもあの頃は——
いい意味でも悪い意味でも“自由”だった。