【実話】現場で飲料水に引きずられた話と、鴨川に魅入られた男の話
現役ドライバーだった頃の話。
とある現場では、
ベルトコンベアから流れてくる荷物を自分の行き先で引き込むスタイル。
間違って積むと「乗り越し」。
そのまま現地で謝罪&再配達行き。地味に地獄。
行き先には数字が振られていて、たとえば——
埼玉行きが556、鴨川行きが565。
これが紛らわしい。
そして現場には、
埼玉行き担当なのに毎回“鴨川行き”を積んでくるドライバーがいた。
その名も、鴨川さん(仮名)。
本名ではない。でももう誰も本名を覚えていない。
発送現場を仕切るのは、濃ゆい管理者たち。
常に拡声器持ち歩いてる人がいて、
本人の目の前で拡声器で怒鳴る。
……それ、拡声器いる???
荷物の扱いにも厳しくて、
誰かが箱を蹴ったと通報が入れば、
現場のドライバー全員集めて説教タイム。
後ろ手で立ってた人に
「姿勢が悪い!」ってなぜか飛び火。
今の時代なら完全にアウト。
でも当時はテンプレ現場あるある。
そんなある日。
ベルトコンベアから、やたら重そうな箱がゴロゴロと流れてきた。
飲料水、120個。
北関東なのに、なぜかパッケージには富士山。
見なかったことにした。
内容は正方形の20L入り。腕が爆発しそう。
そこで悪ノリする現場のおじさん管理者。
「はい、ベルコン速度マックスにしまーす!
頑張って引いてね〜」
……マジか。
3人並んで引き込むけど、
無理無理。完全に間に合ってない。
そのうち自分、
飲料水持ったままベルトコンベアにずるずる引きずられていく。
積込が終わって、休憩室。
管理者がニヤニヤしながら言った。
「いや〜いいもん見れたよ!
はい、敢闘賞ね。」
飲み物と菓子パン、もらった。
その時はクタクタだったけど、
なんか嬉しかった。
あの頃はしんどかった。
でも、笑いながら一生懸命、汗かいて稼いでた。
しんどい中にあった“何か楽しい空気”。
今思えば、
あの頃が一番、仕事してた気がする。