「めけめけの実の能力者、誕生の瞬間」
数年前。
まだ経営の苦しさに慣れていなかった頃。
毎月、資金はギリギリ。
ストレスはMAX。
寝れない・休めない・終わらない。
睡眠薬も安定剤も効かない。
でも朝は早い。だから——
寝酒、投入。
夜な夜な泣きながら晩酌。
「うるさいぞこの酔っぱらい!」と家族に引っ叩かれる。
その瞬間、
なぜかスイッチが入った。
興奮とストレスで何かが吹っ飛んだのか——
突然、
「めけめけ!」「もけー!」
としか喋れなくなった。
本当に喋れない。
何を言っても「めけめけ」しか出てこない。
助けを呼びたくても「めけけ!」
家族「ふざけてんのか!」→また引っ叩かれる。
これはヤバい。
どうしよう。
そうだ、LINEなら文字が打てる。
震える指で「喋れない、助けて」と送信。
——家中、パニック。
救急車、出動。
でも私はふくよかなので、
通常の隊員ではベッドから動かせない。
追加でレスキュー車が登場。
まさか自宅ベッドから
レスキューされる日が来るとは。
計10名体制で丁寧に運ばれ、
大学病院へ緊急搬送。精密検査スタート。
駆けつけた親族たちが見守る中——
結果判明。
「原因は、過度のストレスですね」
……よかった、命に関わるものじゃなかった。
全員ホッと胸を撫で下ろす。
でも私はまだ、
「めけめけ!」としか喋れない。
言葉を発するたび、
親族、爆笑。
こっちは真剣なんですよ!!
と言いたくても——
「めけけ!もけけもけ!」
で、そんな私についたあだ名が、
『めけめけの実の能力者』
いや、ちょっと待って。
これ何の能力?副作用しかないやつでしょ。
カナヅチになるアレと違って、
特に戦えもしないんですけど?
でもまあ、あの経験があったから、
今ではちょっとやそっとじゃ動じません。
……たぶん、
ほんとに能力者になったのかもしれない。